上場準備企業は、経理キャリアを大きく飛躍させるチャンスです。ただし、このような環境で働くのは、魅力が多い反面、注意点もあります。私自身は2社の上場準備企業への転職を経験していますが、実体験から感じるキャリアのメリットと注意点をご紹介します!
目次
上場準備企業に経理をすすめる理由
今後の経理キャリアに大きく貢献する経験が得られる
上場を目指す企業は、上場企業と同水準の業務を求められる、かつ創り上げていくステージであるため、一つ一つの業務が非常に今後のキャリアに貢献してくれます。
例えば、以下のようなやりがいのある仕事を体験できます。
- 決算の高度化(監査対応や複雑な会計基準への適応)
- 内部統制の整備(J-SOX対応やリスク管理システムの構築)
- 開示書類の作成(有価証券報告書や目論見書の準備)
これらは、未上場の中小企業の経理業務ではなかなか得られない経験であり、スキルの幅を広げる絶好の機会です。経理の組織体制は、基本は少数精鋭な状態が多いので、経験が無かった業務でも、突然に高難易度の業務を任せられる可能性があります。
他にもストックオプションなどの経済的なリターンがありますが、必ず上場が達成されるわけではないので、個人的には、株式報酬は期待せず、あればラッキーくらいに考えるのが良いと思います。
成長企業のダイナミズムを体感できる
上場準備中の企業は、成長過程にあることが多く、組織全体が活気に満ちています。このような環境で働くと、以下のような魅力があります。
- スピード感のある意思決定に触れられる
- M&Aなど新しいプロジェクトに積極的に関わるチャンスが多い
- 会社の成長と自分自身の成長を肌で感じられる
たとえば、事業拡大のための資金調達、ストックオプションの発行、M&Aなどのコーポレートアクションなど、会計論点の多い業務に携わることができます。
キャリア市場での価値が高まる
上場準備の経験は、転職市場で非常に高く評価されます。
- 経理責任者のみならず管理本部全体の責任者としての将来性が期待される
- 上場企業(特にグロース市場)での経理マネージャーや経理スタッフ
たとえば、上場準備経験者は、「経理のスペシャリスト」としてだけでなく、管理部門を横断的な「管理本部長候補」としても認識されやすくなります。
上場準備企業で働く際の注意点
業務負荷が大きい
IPO準備は期限が決まっており、通常業務に加えて多くの追加タスクが発生する傾向にあります。
- 監査法人や証券会社、など様々なステークホルダーとのやり取り
- 新しい規程や手続きの策定と運用(社内説明など)
- 開示資料の作成と提出
決算期は、複数の業務が重なることで、残業が増えたり、ストレスを感じることがあるかもしれません。
目標未達のリスク
IPOは必ず成功するわけではなく、上場準備を進めていても、外部環境や経営判断(業績不振、内部統制の不備、ガバナンスの問題)によって、計画が延期、中止になる可能性があります。その場合、経理組織が縮小されたり、期待していた経験が得られないことも考えられます。
組織の安定性に課題がある場合も
IPO準備の激務や企業の成長過程で、経理担当者や他の管理部門の人材が離職することは多々あります。急遽、労務や総務を兼務したり、といった可能性もあります。他にも業務フローが整備されておらず、ルール変更が頻繁に発生し、業務や社内でのコミュニケーションが混乱することもあります。
上場準備企業で成功するためのポイント
自分のキャリア目標を明確にする
上場準備企業で得られる経験が、自分のキャリア目標(例:管理本部長や上場企業での経理スペシャリスト)に合致しているかを確認しましょう。
IPO準備の進捗やリスクを見極める
- 経営陣の志向性
- IPOへの本気度(M&AによるExitの可能性もあるのか、など)
- 上場準備の進捗状況
- 監査法人や証券会社の選定、契約状況
- 内部統制の整備が進んでいるか
- 一緒に働く経理チーム及び監査役について
- 経理部長や監査役が公認会計士の場合は、会計論点の壁打ちになってくれ、スキルアップのスピードがアップ
- 監査法人対応(会計論点の議論に参加できるか)、開示資料の作成を任せてもらえるか、でスキルアップのスピードが変わる。
- 複数名の経理スタッフがいて、業務をカバーできる状態になっているかどうか。
上場準備企業といっても、一括りに出来ないほど千差万別であるため、望んでいる経理の経験が得られるか、を冷静に見極めることが重要です。
まとめ
上場準備企業での経理業務は、キャリアを飛躍させる絶好のチャンスですが、高い負荷やリスクも伴います。そのため、自分の目標と状況をよく考えた上で判断することが大切です。万人に合うわけではないと思います。
ただ、上場準備の経験を通じて、成長企業のダイナミズムを体感しながら、多様なスキルを習得できる環境は貴重ですので、経理キャリアを次のステージへと進める鍵となるはずです!